3Cs 2021 Tokyo: 変異する舞台芸術

3Cs 2021 Tokyoでは、アーティストによるオンライン作品もご覧いただけます。プログラムは下記です。

オンライン作品の配信は間もなく開始いたします。

プレッシャー?

異文化間のコラボレーションは「交渉」という概念の新たな可能性を開く場になると考えています。今回、アユは、自分とは異なる文化的背景を持ち、異なる経験をしてきた日本のアーティストと共同作業を行います。同じアジア人として共感できる部分も多いなか、伝統によって取り組み方や着眼点が異なります。コラボレーションを通して、それぞれが持つ独自の身体について話し合い、探究していきます。同じ取り組み方をしようと事前に申し合わせるのではなく、共同作業のなかで生じる二人の対話が視覚化され、芸術作品となって表現されます。交渉によって優位性を競うのではなく、それぞれのアーティストが自らの意志で葛藤しながら努力する姿を見せていきます。人間として葛藤するのは二人とも同じですが、その葛藤の仕方が異なるのです。

photo by Adji nugroho

アーティスト
アユ・ペルマタ・サリ

キュレーター
スカール・プトゥリ・ハンダヤニ

ドラマターグ
ニア・アグスティナ

映像作家
エム・アジ・ヌグロホー

瞬間的なイメージ、瞬間的なサウンド

『瞬間的なイメージ、瞬間的なサウンド』の映画版は、異なる設定における時間知覚や、受け手の知覚に哲学的な影響を与える心象や音波を生み出す、身体と周囲の環境との関係性を追求するシリーズです。前回のタイでは、タイ北部ルーイ県のダン・サイとタイ中部カーンチャナブリー県のサンクラブリーとの間で、オブジェやストーリーを交換しながら、人生や生活の繋がりを感じとるコラボレーションを行いましたが、そのプロセスから派生た企画です。今回は、音を通して、東京という大都市のスピード感を知覚する意識について実験していきます。そして音の流れを瞬間的に乱すことで、都市の音風景から異質な部分を抽出することが可能なのか問いかけます。

アーティスト
チャナポン・コンカン

コラボレーター・出演
小泉篤宏

キュレーター
ワイラ・アマタタンマチャド

ジョシュ運動

「ジョシュ運動」は、世代を超えたアジアの女性たち(50代〜60代、20代〜30代)の体験に焦点を当て、女性たちがどのように考え、社会におけるジェンダーの潮流にどのように呼応しているか理解するためのコンセプチュアルなプロジェクトです。クゥアン・ジョウとイー・チンという二人のアーティストは、異なる世代の女性たちとのフィールドワーク、身体を使った実験的なワークショップやパフォーマンスを通して、ジェンダーに関する思い込みや先入観を切り離そう試みました。 ご覧いただくビデオは、このプロジェクトを収録したドキュメンタリーであると同時に、女性の自己変革運動に参加していただくための招待状でもあるのです。

アーティスト
チョウ・クゥアン・ジョウ
チェン・イー・チン

コラボレーター・出演
佐藤朋子

映像撮影
邱条影室/邱垂仁

ビデオ提供
Thinkers’ Studio and Low Fat Art Fes

ビデオ編集
ヌグ・チ・ワイ
ウー・タイユン
ウェイチー・リー

日本語字幕
ウェイ・ペイウェン
榊原香純

キュレーター
カオ・イーカイ

プロジェクトプロデューサー
ビビアン・リー

助成
National Culture and Arts Foundation

円盤に乗る派作品 2020-2021

2020年から2021年にかけ、「円盤に乗る派」は主にオンラインにおけるクリエイションを通じて様々な試みを行ってきた。当初掲げていたテーマは「演劇の原理的な要素を取り出し、それがコミュニティにおいてどのように作用するかを探る」というものである。これは円盤に乗る派の普段の活動の中から導き出されたものだが、オンラインでの可能性や不可能性に直面する中で、このテーマは様々に変化・発展していった。各国のアーティストや芸術関係者との対話やコラボレーションを通じて円盤に乗る派は何を発見し、どのように演劇活動に活かしていくのか。その軌跡を1本の映像にまとめ、ドキュメンタリーとして提示する。

アーティスト
日和下駄
カゲヤマ気象台

映像作家
三上亮

キュレーター
椙山由香

ようこそ

「Choregraphing in the Cloud」は、ワークショップ、レクチャー&パフォーマンスや映像作品のショーケースを通して、新型コロナによる制約を活かしながら、バーチャルで芸術作品を作ろうという企画です。主にカラオケを出発点として使い、個人と集団の娯楽を適応機構として理解し、ハイブリッドな文化的アイデンティティーやその表象を模索していきます。このリサーチは、「Karakoa」の越境型移動式フェスティバル「3Cs」(Creators Cradle Circuit)の協力を得て、2020年にスタートしました。『Choreographing in the Cloud: Welcome』は、カラオケビデオの特徴を取り入れた自己完結型の「self-entertainment」ともいえる「オートビデオグラフィー的」なパロディーとして出発しました。隔離中に、自宅で、多次元的な範囲内で演じる(または演じることのできない)アーティストのリアルな実態を捉えています。この映像作品は、9月の下旬に、東京にあるBUoY アートセンターで、日本の俳優の八木光太郎氏と共にライブとバーチャルで発表される作品に向けた序章として作られたものです。

アーティスト・振付
ラウル・エル・ラキティコ・ジュニア

コラボレーター・出演
八木光太郎

出演
デボラ・レミュエル

サウンドアーティスト
ハロルド・アンドレ

嵐の丘までの道
− Archive of Yasuno Miyauchi’s online trials-

昨年度から3Csで行ったオンライントライアルの内容や、先に発表した川村とのコラボレーションによるオンラインパフォーマンスなどの内容をまとめ、本パフォーマンスまでの道のりを描いたダイジェスト映像。


アーティスト
宮内康乃

映像編集
増田久未
宮内康乃

キュレーター
松本千鶴

3Cs タイダン・インターベンション: ロックダウンを超えたスピリチュアルなつながり

「プレッシャー?」対話編

3C 2021では、Karakoa Project 2020から始まった 「プレッシャー? 」の創作方法を紹介しています。「プレッシャー? 」は、アユがシゲ・プングテン(女性の踊り手が踊るランプン州の伝統舞踊)を研究した結果、ペパドゥン族の文化的慣習である女性と男性の位置関係が、アユと彼女の父親の関係とある意味で交差していることに気がつきました。その過程で、アユは「交渉」を強いキーワードとして見出しました。女性と男性、伝統と現代、普通と奇妙、混雑と静寂の間の交渉。タイ人のコラボレーターと共に、アユは手法を伝えたり、身体の形式を見つけるだけでなく、それぞれのコラボレーターの文脈の中で、これらの交渉についての対話をすることを試みました。

photo by Adji nugroho

アーティスト
アユ・ペルマタ・サリ

キュレーター
スカール・プトゥリ・ハンダヤニ

ドラマターグ
Nニア・アグスティナ

コラボレーター
アカリン・ポンパンデチャー

石は石ではない

ロックダウンにより、ダン・サイ地区への移動が不可能になった結果、ワークスタイルをオンラインに変更する必要が生じました。それによってサングーラに取り残された人、タイムとダン・サイに住むビールのコラボレーションが実現しました。「石は石ではない」は、2人の対話、2つの都市間の情報交換、起こった事件などから徐々に学んでいく、独立した実験・研究プロジェクトです。 2人とも自然を美学的、哲学的に体験することに興味があります。突然、会話の中に石が持ち込まれたことで、2人は記憶の中の石を思い出し、平凡だが非凡な性質についての議論を続けました。自然の一部であり、自然に近いものは、過去の痕跡に満ちていながら、まだ動かすことができます。このことから、別の地域の固有の石と何か交流を持ちたいと考えるようになりました。両者はそれゆえ、一方から他方へと石を選び、運ぶメディアとなりました。これがきっかけとなって、彼らは石にますます注目するようになり、次第に異質な石と生活を融合させ、2つの地域のある瞬間に新しい別のものへと結晶させていくのです。

アーティスト
チャナポン・コンカン

キュレーター
ワイラ・アマタタンマチャド

コラボレーター
アヌパー・ジャンタケウ

ジョシュ運動

ジョシュ運動は、アジアの女性たちの経験に焦点を当て、世代を超えた女性たち(例えば、50〜60代の女性と20〜30代の女性)が社会のジェンダーの波に対してどのようにジェンダーを考え、反応するのかを理解するための概念的な研究プロジェクトです。二人のアーティスト、Kuan-JouとYi-Chinは、自らのジェンダー意識から離れ、台湾、タイ、日本での一連のフィールドワーク、実験的な身体のワークショップとパフォーマンスを通じて、異なる世代の女性の世界に入ることを試みました。その過程で、女性のイメージの豊かな文脈を再定義、拡大し、異なる世代の思考を可視化し、認識できるようにしたいと考えています。 このインターネット上のプレゼンテーションでは、「Low Fat Art Fes」での私たち目の覚めるような体験、プロジェクトでの発見、そして振り返りについて語ります。

アーティスト
チョウ・クゥアン・ジョウ
チェン・イー・チン

キュレーター
カオ・イーカイ

プロジェクトプロデューサー
ビビアン・リー

コラボレーター
パンダウ・ジャリヤプン – ヨイ

名取川 / NATORIGAWA / แม่น้ำลักนาม

本上演は日本の伝統的なコメディ、狂言の演目である「名取川(Natorigawa)」を下敷きにしている。名取川は日本の東北部、宮城県に実在する川であり、「名取(Natori)」は「名前を取る」を意味する。この狂言では、あまりに物覚えが悪くて自分の名前すら覚えられず、袖に書き付けている僧侶が、この名取川を渡るときに文字が消えてしまい、名前を取られたと勘違いしてしまう。名前を持って社会の中で生活している我々にとって、名前は自分の存在と一体化しており、この両者を切り離すというのは想像し難い。しかしこの作品において、名前はすぐ忘れてしまうものであり、簡単に川に流されてしまう。その後に残る「名前のない存在」というのは一体何なのだろうか? それはものすごく自由な存在のようでありながら、どこか捉え難く、不気味な印象もある。「名取川」は笑いを誘う物語だが、この笑いはそのように自由で、不気味な存在に直面したときの戸惑いから引き起こされているような気がしてならない。

この不気味な存在は、オンライン上に偏在している、匿名で実態のわからないオブジェクトと似ている。例えばSNS上で、ある猫の写真がネタとして取り上げられ、加工され、拡散される。そのときその画像は元の猫を離れて、まったく別の、捉えがたい何かとして現れ始める。それは猫に似ているが、我々が普段道端で遭遇する動物とは全く違う「何か」なのだ。よくよく見ると不気味だが、実態のないことは同時に自由ということでもある。それらは名前や身体に縛られておらず、どこにも所属していない。

 創作はバンコクのアーティスト、Kwin Bhichitkulと共作で行われた。Kwinのパフォーマンスはタイや日本における、神やお化けといったスピリチュアルな存在をモチーフにしている。こういった存在は昔話の中だけでなく、現代の日常においても存在しており、子供へのしつけの場面でも登場するし(「悪いことをすると化け物が来るよ」)、都市伝説や怪談のような形でも広まっている。高速道路の暗闇からインターネットの片隅まで、様々なところに霊的な存在は偏在している。これら人智を超えた存在を踏まえながら「名取川」という物語を語り直すとき、名前を忘れる僧侶はいかにも不思議で不気味な存在として立ち現れるが、それは同時にまさに現代の神話として、奇妙なリアリティを帯びるように思う。そして名前や所属に束縛された生活を送る我々に、どこかすがすがしいような自由さすら示してくれるだろう。

アーティスト
日和下駄
カゲヤマ気象台

キュレーター
椙山由香

コラボレーター
クィン・ビチェクル

「クラウド上での振付:プレゼンス」

「ダン・サイ ブック」

「クラウド上での振付」は、2020年に、カラオケ文化や、コミュニティに存在する既存の人為的な現象や構造が、集団、つまり多様な価値観やアイデンティティをどのように捉えているかを調査することを動機とする、一連の共同運動研究としてスタートしました。今回の「プレゼンス」では、カラオケを歌うという日常的な行為を出発点として、自分の身体と動きを自分自身、他者、そしてより大きなコミュニティとの関係において理解し、探求することで、地域の現実についての会話を引き出すことに継続的に焦点を当てました。さらに、他のアーティストや地元の人々と遠隔/仮想的なコラボレーションやコミュニケーションを行うという型破りな設定の中で、コミュニケーションに関連した「プレゼンス」の成立にまつわるアイデア(遠隔/仮想的なプレゼンスと、触覚/物理的なプレゼンス)についても考察しています。

「ダン・サイ ブック」は、タイで使用されている典型的なタイ語の教科書を、現代的かつ地域的な現実と表現を用いて再構築したものです。ダン・サイの子供たちとの交流を通して、この本の作成は、地元の神話や伝説を含む実際の場所や地元の人々の生活様式に根ざした物語、伝統的な詩の代わりとしてカラオケの歌の使用など、視覚的な教育メディアとして、タイダン族の言葉と標準タイ語のバイリンガル使用を認めることを目的としています。このプロジェクトは、地元の若者が、イメージ、ストーリー、ボキャブラリーの選択を通じて、自分たちがどのように表現されたいかを決定する力を持つことができる場を作ることを目指しています。

この2つの共同参加型リサーチでは、主にルーイ県ダン・サイ地区の若者が参加し、一連のオンラインインタビューや、カラオケと動きの研究をしたワークショップを通じて、表現や表象、創造に関するトピックを共同で明らかにしました。

アーティスト
ラウル・エル・ラキティコ・ジュニア

コラボレーター
ヌタモン・プラムスムラン

リモートでの音楽の継承実験

宮内康乃が昨年参加した2020年の3Csでは、他の参加アーティストやキュレーターたちと同様に、感染症の世界的拡大という状況と重なり、「オンライン」や「リモートワーク」が前提となることを余儀なくされたが、同時に様々な通信手段がアーティストの創作や発表にとって新たな可能性を持つことも見えてきました。それ以来、彼女は音楽活動を現場からオンラインで集まることへと徐々に変化させ、日本とタイの現地参加者と協力してオンラインでの声のワークショップを行うプラットフォームを追求してきました。今年は、このオンラインでの活動をさらに進め、「音楽がコミュニケーションツールとして成り立つアプローチを、普及にとどまらず、どう次世代へ継承していけるか」という自身のかねてよりのテーマに基づき、リモートによる、地域コミュニティへの音楽の継承を試みます。

タイのルーイ県では、宮内が初期に作曲した「ブレス・ストラティ」という曲の指示書(五線譜のない楽譜)を受け取った地元の3つのグループとコラボレーションしました。各グループの参加者のうち1人がリード役となり、自分たちの表現で曲を解釈して演奏し、宮内は一切内容を指示せず、その過程にオブザーバーとして参加しました。今回の発表では、「ブレス・ストラティ」の指示書が、作曲者がいなくても曲を再現するのに有効であったかどうか、また、思いがけない解釈の違いが音楽を発展させる可能性があったかどうかについての考察を発表します。今回のルーイでの試みは、次の東京公演でも活かされる予定です。

アーティスト
宮内康乃

キュレーター
松本千鶴

コラボレーター
サメ・クァエワユー
スンセンチャイ・スンゲチィン
ナタフォン・クリャンクレイウォン